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第6章の44
隣に座っている諒の手前、困ってしまったが、麻也は黙り込むしかなかった。
「いや、ゴメン、それくらいディスグラは奇跡だってことなんだよ。若いのに力があって。
なのに、若さとか美しさとかそういうものにばっかり注目して、
簡単にマネできるって思うバカもいるんだよ。」
その言葉に、麻也はどうにか笑みを作ったが、
一度心の奥にできたしこりのようなものはどうすることもできなかった。
何とか、次の取材があるから、と嘘を言い、麻也は席を立った。
タクシー乗り場で3人になったところで須藤が、
「麻也さん、今日はこれで仕事終わりですよ。」
と念を押してきた。
「うん。知ってたけど…柴田さんの雑談は長いから…」
そして、須藤にあやしまれないように、
麻也は諒とは別のタクシーに乗り込み、少し遠回りをして諒の家に向かった。
タクシーの中でも、麻也は落ち着かなかった。
坂口が育てるというバンドが成長して、イベントなんかで一緒になるようになったら、
また坂口と顔を合わせてしまうかもしれない…
もっとも、あの男は自分のことなど忘れているかも…
いや、忘れていないからこそ、ディスグラにこだわっているのではないのか…
(何でもいい、とにかく諒にバレないで…)
これからせっかくのデートだというのに、麻也の心は晴れなかった。
デートの場所は、諒のマンションの目の前にあるイタリアンのレストランだった。
一番奥の席で、諒は待っていてくれた。
嫌なことは一瞬忘れて、自然と笑顔になり、諒に歩み寄る。
麻也が席に着くと、
「麻也さん、俺たちやっとデートだよ。」
「ほんとだ。俺たちって順番逆だったんだね。」
麻也の言葉に諒は真っ赤になりながら、
「ま、赤い糸で結ばれてたんだから、いいんじゃない。」
それを聞いた麻也の笑顔を見て、諒はまた照れている。
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