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第8章の8
事務所に戻ると、みんな何だか忙しそうだった。
社長が言うには、昨夜のテレビを見た関係者からの取材の問い合わせらしい。
メンバーも携帯をチェックすると、かなりの数の留守電が入っていたが、
みんな必要最小限しか返事をしなかった。
幸い、というべきか、みな、両親からは、
メジャーなテレビ番組に出られて良かった、というようなことしか言われずに済んだ…
ファンがマネージャーたちに渡してきた手紙やプレゼントの中のカードには、
「諒クンと麻也さんがつきあっててうれしい」とか、
「2人ともすっぴんが可愛らしくてびっくりした」とか、
「昼間のリビングでの麻也ちゃんはまさに天使」などと書いてあった。
それを諒と麻也は幸せな気持ちで眺めた。
2人は祝福されているようだし、今のところ、テレビ作戦は上手くいっているようでもあったから…
しかし、2人には、その後の仕事が大変だった。
木内との打ち合わせが深夜までかかってしまったからだ。
「今日で、大体の発売日、決めるからね。で、テーマとかは決まってるの? 」
「はあ…」
と、麻也は諒と、これまでに決まった事項と出来た曲のスコアや歌詞を見せ、説明したが…
「まだそれしか出来てないか…」
「すみません…」
「でも、もう、この日だな、発売日。制作部からも言われてるし。」
と、木内はカレンダーの赤丸を指し示す。
そして、厳しい口調で、
「となると、ツアーの日程も決まるから、気を抜かないで。
忙しいのはわかるけど、一日も早く仕上げて、俺のとこに持って来て。」
2人は平謝りで、打ち合わせ室を出た。
確かに、今日のようなガラス越しのもどかしいコミュニケーションよりも、イベントよりも、
早くワンマンのツアーがしたい。
となれば、もちろん早く曲を仕上げたいのだが、この忙しさとのジレンマが…
そんなことを、廊下を歩きながら語り合っていると、須藤が、
「諒さんと麻也さん、あさって大阪キャンペーン決まりましたから。」
「えっ? フロント2人でいいの? 」
すると須藤は言いづらそうに、、
「明日、出るからです。」
「出るって、何が? 」
「諒さんの、離婚の記事がスポーツ紙に。」
2人は愕然とした。
覚悟していたとはいえ、いよいよか…
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