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第8章の10

 午後からの取材は、仲のいい音楽誌だったので、 諒の離婚のことは一切触れられず、「情熱ジャパン」のことが少し触れられただけで、 後はシングルについて語って終わった。 撮影では、指輪をはめた2人の手のアップも写されたが、 あえてその意味は言葉にされなかったし、麻也たちも無理に説明はしなかった。 (男同士、っていっても、付き合っていることは確かにファンにはショックかもね…) もう一つの現実を突き付けられたようで、麻也は複雑な気持ちになった。 それは諒も同じようだった。  その後、夕方には仕事が終わったので、急いで家に帰って、明日の準備と曲作りだった。 「そうだ。あれ、良くない? ライブでしかやってない曲も収録、って。」 「麻也さん、何て頭がいいんだ…それで3曲は稼げるね。」 しばしの休憩も惜しんでとりあえず、それぞれ1曲目は上げた。 「明日は新幹線で寝てけばいいよね…」 「麻也さん、朝はきちんと起きてよ…グラサンは俺が持ったからね…」  次の日の大阪では、新幹線のホームから、すでに追っかけの女の子たちが待っていた。 「諒クン! 」 「麻也さん! 」 口々に叫ぶ方向へ、サングラスの2人は手をつないだまま、笑みを浮かべる。 そして、また、指輪を見せびらかす。 「ペアリングしてるしー!! 」 「手、つないでるしー!! 」 「キャーッ!! 」 「ほんとに付き合ってるのーっ?! 」 付き合ってるよぉ~と2人で叫ぶ。すると安心したように、何人かが走ってくる。 それを須藤と鈴木があわてて押しとどめる。フラッシュが光る。 「プレゼント渡させてください! 」 「後から本人に渡しますので。規則なんでごめんね。」 諒と麻也も首を伸ばし、 「ごめんね。仕事終わりに開けさせてね。」 「はい!」 アーティスト本人に言われると、ファンは弱い。  改札に向かうために歩き始めると、 「ラジオも行きます~!!! 」 という声が追いかけてきた。

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