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第8章の13
地元の関係者との会食を済ませ、ホテルに帰ると、もう12時を回っていた。
麻也と諒の部屋は水色の壁紙が可愛い、内装も豪華な、ダブルの部屋だった。
「わあ、新婚旅行って感じ。」
麻也が喜ぶと諒も、
「みんな、粋なはからいしてくれるじゃん。」
と、疲れた表情の中にも笑顔を見せる。
そこで、麻也は勢いよくベッドに飛び乗りながら、
「もう『営業ホモ』なんて言わせないよ。」
「何それ? 」
「気がつかなかった? ラジオの会場から出る時、誰かが言ってたの。
『こんなの営業ホモやん』て。」
営業ヌキじゃんねえ、と麻也が何気なく続けると、諒は押し黙ってしまった。
「諒…? 」
ベッドの端に腰掛けた諒は、うつむき、涙目になっている。
「麻也さん、ごめん。こんなことにずっと付き合わせちゃって。」
麻也はあわてて起き上がり、諒の横に腰掛けると、諒の肩を抱き、
「とんでもないよ。俺、あの、指輪披露がすごく嬉しかったし。
みんなに直接お披露目できて良かったんじゃない? 」
そうかもしれないけど…と、唇を噛むと、諒は、突然、
「あの、さ、ガセネタじゃなくて、あっちはほんとに結婚が決まったそうだから。」
そして、困ったように、でも、麻也の目を見て、
「もちろん、俺は直接は連絡は取ってないよ。
でも、向こうの親さんが、初孫だから大翔のこと、ずっと気にかけて連絡が来るから、
俺の親は写真とか送ったりはしてるんだ。
それで、ヤツの母親の結婚が、本決まりになったって…親が俺に言ってきて…」
そして諒は大きな手で麻也の両頬を包み込むと、
「だから、麻也さんは、本当に心配しないで。」
「うん。諒とご家族のこと、本当に信じてるから、諒こそ心配しないで。」
諒のほっとしたような笑顔が切なくて、麻也は諒を抱き締めずにはいられなかった。
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