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第8章の20
「大阪、お疲れさん。おかげで反応も上々だったそうじゃないか。
東京の方も、他の地方も活性化してるよ。」
社長が、上々、ではなく「活性化」と言ったのは、やっぱり、
2人のカップルぶりだけではカバーしきれなかったことも多かったのだろうと思う。
諒が現在独身なことは喜べても、
「結婚してることを隠してたなんて、ひどい」と思った女性ファンも多かったかもしれない。
2人が付き合っているとすれば、
麻也が例のファンレターで思い知らされた「不倫、二股、略奪愛」の可能性に気づいて、
嫌悪感を覚えた人もいたかもしれない。
諒が両親の手を借りて育児をしているといっても、「ほほえましい」ではなく、
「しょせん子持ちじゃん」と失望したファンもいたかもしれない。
メンバーのうち、フロント2人が「結婚しているも同然」ということが面白くない人もいたかもしれない。
そして、事務所では、ゲイの活動家たちの団体からの「有名人のカミングアウトの例として、力を貸してほしい」という依頼も断っていた。
本人たちも同性愛というものは作品にしているくらいだから何の抵抗もないが、
実感としては、自分はゲイというより「運命の人がたまたま男だった」ということだったから、
かえってその団体の活動に失礼ではないかと思ったのだ。
事務所の方は2人のこのスタンスを好都合としていた。
でも、2人はもう、この前代未聞のファンタジーを始めてしまった。
幸いだったのは、日本のマスコミのメジャーどころはまだ、
男性カップルを「スキャンダル」にすらできないという現状だった。
それで、騒がれない分、普通の芸能人の男女カップルに比べて、
2人の耳に入ってくる雑音も少ないだろうし、
ファンにも不快な思いをさせないと思ったのだが…
でも、本当に麻也と諒が愛し合っての同棲をしているということは、
真樹に指摘された通り、一種のさらしものになっていた。
現に、帰りの新幹線では、手をつないでいるとすごく冷たい視線で何人にも見られたし、
30代くらいのサラリーマンのグループが、すれ違いざま、
「ディスグラだよな。芸能人て、やっぱりホモが多いんだな。」
「今のそうだよな…」
なんて言ってたし…
でも、もう、引き返すことはできないのだ…
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