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第8章の24
「でも少し、明日も仕事終わりは早いから、明日まとめて、
2人で検証しよう、ね、麻也さん。」
「あっ、明日検証するなら、俺、今夜中にどうにかする。」
「でも麻也さん、徹夜はやめてね。」
諒は厳しく釘を刺す。
「何で? 」
諒は少しイラッとしながら、
「何で、って、麻也さん、さっきも寝てたじゃん。疲れてるんでしょ。
体調崩して、またお薬のお世話になっても困るじゃん。」
「諒が薬だから大丈夫だよ。」
「そういう問題じゃなくて! 俺はせめて3時間くらいは今夜は寝るつもりだけど。」
「うん。どうぞ。」
「どうぞじゃなくて! 」
麻也の体が本当に心配で、諒の語気も思わず荒くなる。
「だって諒、寝かせてくんないじゃん。」
こんなのただのあげ足取りだ、と諒はまたイラッとくる。
「寝かせてあげるから、約束するから一緒に寝て! 」
「だから、どうぞ、って。俺もう仕事に戻るから。」
そこには、諒も手の届かない、孤高のミュージシャンの表情しかない。
「頑固だなあ…」
「知らなかったわけじゃないでしょ? 」
「そりゃそうかもしれないけどさあ…」
これが、付き合い始めの麻也の体力だったら気にもしなかったかもしれないが…
いや、最初のすり合わせでもひっくり返ってたっけ…
同じように諒も、自分の部屋に作業に戻ったが、麻也のことが心配で仕方がない。
麻也は、もう、自分と出会った時は、前のバンドで心身共にずたずたになっていたようだし、
何より、それに追い打ちをかけるように、自分の結婚問題で、
自律神経がやられてるのだし…
確かに素人目には良くなったように見えるけれど、
若手にはつきもののハードスケジュールでそれがぶり返したら…
責任を感じている諒は気が気でならない。
(いずれは麻也さんを、「寿引退」させてあげたい…か?)
いやいや女性じゃあるまいし、と諒は自分で突っ込んでしまう。
(産休とか、子育て終わるまではマイペース、
なんて仕事に恵まれてるヒトが羨ましいよな…)
そこまで考えて、まずは自分がそれだけ麻也をかばえる力を持たなければと気づく。
が、それはまたプレッシャーになってしまうのだが…
「日向諒、ここで負けてどうするよ…」
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