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第8章の28

 最近では、とにかく売れることが先決で、 CDではキャッチ―な麻也の曲の方が優先されていた。 ライブでは半々くらいの割合で2人の曲を演奏していて、 それがライブに独特の陰影をつけ、ファンを増やしていると麻也は思うのだが… いつの日か、これも問題になるような気がしている。 諒と。いや、バンドの中でも。そして周囲とも。  今のところ、諒は自分のことを尊敬もし、 キャリアも上と思っているようなので問題はなさそうだが、 いつまでその状態が続くかわからない。 実はもうすでに、諒の曲が、リリースの時には2番手になりがちなことに不満を感じているかもしれない… でも、バンドは売れ続けなければならないのだ。 それが諒と自分の中に悪い影響を及ぼさなければいいのだが… 今頃になって、諒との現実の厳しさを実感する。周囲に指摘された通りだったと。 アーティスト同士って難しい…というか、成長してくるに連れ、難しくなってきているのだ…  …そんな中、諒はどう時間を作っていたのか、 真樹の行きつけのアクセサリーショップで、 お揃いの右手の小指のシルバーリングをオーダーして、プレゼントしてくれた。  2人の部屋で、その指輪が入っている小箱を開けた。  やや太いそのリングには、諒の姓の「日向」にちなんでの太陽のモチーフと小さなペリドットが、 そして麻也にちなんでの天使の羽根のモチーフと小さなダイヤモンドが配されていて… そのカッコよさには麻也も歓声をあげた。 「麻也さん、これ、本物のダイヤだからねっ。ジルコニアじゃないからねっ。」 「えー、そんなっ、諒、そこまでよかったのに…」 「だって麻也さんの象徴だから、何としても本物のにしたかったの~…」 「太陽に月、ではなかったんだね。」 「うん。麻也さんといえば王冠でも良かったんだけど…ふふっ…」 諒の目が何やら、やらしー色合いを帯びる。 「な、何…? 」 麻也の体は半分逃げていた、が…やっぱり強く抱き寄せられて…耳元に囁かれた。 「天使の羽根の着脱位置を、俺だけが知ってるからさ…」 …麻也は諒から受ける背中の愛撫を思い出して体が熱くなったが… 「…そ、そんなの、楽屋でみんな見てるしっ…」 「でも、ベロチューしてアナタを飛ばせるのはぁ、あたっ…痛いよ、麻也さん…」 グーで軽く殴って黙らせた。  時間はなかったので、レストランも用意出来はしなかったし、誰かを招くこともできなかった。  でも、お気に入りのシャンパンを開けて、 お互い、指輪を相手の指にはめあって、誓いのキスをした… 「…り、諒っ! こういう時にまで舌入れなくたっていいじゃん! 」 「だって、最近キスも少ないんだもん。めでたい時に怒んないで♪ 」 そう笑いながらハグしてくれる瞬間の、諒の笑顔がなんとも麻也にはいとおしかった。 そして、諒は耳元で囁いてくれた。 「麻也さん、いつか披露パーティしたいね。」 嬉しい言葉だったけれど、また厳しい現実を思い出して、ちょっと寂しくなる。 それで冗談に紛らした。 「そうだね。大翔君がハタチになるまで待たないとね。」 「ええーっ! そんなに先ぃー! 」 「どうせ死ぬまで一緒なんだから、理解者に合わせた方が得策だよ。」 でも、諒はその「大翔が理解者」という考えがたいそう気に入ったらしく、 理解者かぁ…と何度も繰り返してつぶやいていた。

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