310 / 1053
第8章の32
「でも俺たちの作品は愛されてるんじゃないかな。
だからCDやなんかの売り上げは伸びてるんじゃない?
諒の歌詞は、相変わらず同性愛に関するものもあるし、
ライブでは退廃的なムードもあるし、支持してくれる人は支持してくれてるんだよ。」
「まあそうだけど…」
酔ってしゃべりすぎだな、と思いながらも、麻也はやめられなかった。
「諒と俺がリアルにデキてるのと、
営業ホモなのとどっちがみんなは嬉しいんだろうね? 」
「いや、兄貴…」
「でも、真樹も知ってる通り、俺は根っからのホモではないよね。
俺はただ…」
そこで麻也はなぜか言いよどんだ。
好きになった諒がたまたま男だったから…というのがこの話の着地点のはずなのに…
自分の中で、何かが違うと言っている気がした。
…俺は…諒に…何かを塗りつぶしてもらっているだけ…?
…黒い過去を、なかったことにしてもらっているだけ…?
女にはできないことだから…?
あんなに自分を甘やかしてくれるから…?
言葉に詰まってしまった自分に助け舟を出すように真樹が、
「だめだ、俺たち相当酔ってるわ。メールタイムにしちゃおうよ。」
そして、それぞれのベッドの上で、おのおのメールを打ち始めた。
「えーっと、愛しの恵理ちゃんへ…」
麻也はためらいを振り切るように、
「大好きな諒…」
すると真樹は笑いながら、ツッコミを入れてきた。
「ふーん、やっぱり大好きなんだ、って俺たち何で音読してんの? 」
ともだちにシェアしよう!

