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第8章の33

 ディスグラの三枚目のアルバムは、今回も90万枚の大ヒットになった。 社長に提案された捨身の作戦が上手くいったというわけか、 心配していた諒のスキャンダルの影響はなかった…のか… いや、あったのかもしれない。社長と木内は、 「100万枚はいくと思ったのに…」 とボヤいたそうだったから… それが伝わってきて、次はセルフプロデュースの麻也は大きなプレッシャーを感じてしまった…  シングルも90万枚の大ヒット。  ただでさえ多かった取材は依頼が増え、 音楽雑誌以外ではメンバーが全員そろって取材を受けることはできなくなっていた。  が、しかし、ツアーのチケットの発売を前にゴールデンタイムのテレビの出演も増え、 他のロックバンドやアイドルとも共演するようにもなった。 ロックバンドとは、音楽性は違えど、仲良くなることも多かった。  が、アイドルは麻也にとっては相変わらず面倒だった。  世間話をしていただけなのに、バンドマンに手を出されては… といった感じで露骨にマネージャーににらまれたり、 その逆に「ファンなんです」と携帯の番号をせがまれてやんわりとかわしているのに、 またマネージャーや他のアイドルに麻也たちの方が色眼鏡で見られたり…  他のメンバーももちろんそうだが、 アイドル以外の業界人からも見せられる諒の絶大な人気も麻也は思い知らされ、 不安になることも多かった。  また、いろんな噂も耳に入ってくる。面と向かって嫌味を言われることだってある。 「1000人斬りの諒さまが、いくら2000人斬りの魔夜さまとはいえ、 誰かにかしずくとはおいたわしい」 とか、 「諒さんの曲の方がカッコいいのに、 麻也さんに『誰のおかげでここまでこれたと思ってるんだ!』と楽屋で怒鳴られていた…」 とか… 「麻也の束縛がひどくて、諒は女の子に逃げたがっている」 「若いうちに相手を決めてしまったばっかりに、 諒は芸の肥やしになる女遊びができないから、この先伸びない。もったいない」 とか…数え上げればキリがないが、諒と誰か、というのには、嘘と思っても胸が痛くなる。  だから、冗談に紛らせて言ってしまった。朝の忙しいひと時に。 「諒、アイドルなんか相手にしないでよ。」  だが、諒に背を向けて出かける準備をしていた麻也は、 諒の両手によって正面を向かせられた。 「麻也さん、何でそんなこと言うの? 」 「えっ…? 」

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