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第8章の36

真樹と話していて言葉に詰まったように、 自分はただ、諒の熱情と甘やかしに押し切られているだけ、 忌まわしい過去を忘れさせてくれるだけで、諒と一緒にいるのだろうか。  でもその一方で、諒の離婚歴や子供の存在に密かに傷ついている自分も確かにいて… 諒が結婚していた一年足らずのあの苦しみは…  でも、最初に告白してきたのは諒だし… でもその愛を受け止めたのは紛れもなく自分なのだ。  …麻也が混乱しているうちに、リハーサルのスタジオに車は着いてしまった…  今日は思う存分ギターに触れて、音決めを楽しむハズだったのに… 諒は無言でさっさとスタジオに入っていく。  今日の作業は、演奏しながら、おのおの機材をテストしたり、通しで演奏したりして… 麻也と諒がおとなしいので、いつも以上に淡々と作業が進んでいく。  とはいうものの、全20曲を演奏するので、深夜までかかってしまった。 その間、諒は作業のことしか口をきいてはくれなかった。  帰り際、諒が席を外した時に、真樹から嬉しい誘いがあった。 「兄貴、明日、仕事の後、時間ある? 」 明日は、ツアーのパンフレットの写真撮影が最後で、早くにあがれるはずだった。 それに、諒と自宅で2人きりになるのも気まずそうだし… 「ああ、大丈夫だけど、何? 」 「恭一さんと飲みに行く約束してるんだ。 諒や直人も行くっていうから兄貴もどうかなって…」 諒もか…何より、訊く順番が逆じゃん…と思いながらも、 恭一には会いたくて、麻也は行くと答えた。 最近では、ベースのことを相談するために、真樹の方が恭一に会うことが多い。 「にしてもさ、兄貴、諒とケンカしたの? 」

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