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第9章<夜の欠片が突きささる>の1

「ワン、ツー! 」  直人のカウントで、火ぶたが切って落とされる。 麻也のギターと真樹のベースが歓声を切り裂いていき… スポットライト、諒が照らしだされると、その豊かなボーカルとともに、 客席のボルテージは急上昇していく。  ディスグラの全国ツアー、「NOT DIAMOND]ツアーの幕開けだった。  ホールはぎっしりの観客。 1曲目の「ディスティニー」はバンドのテーマ曲のように、最初から客席の大合唱だ。 ディスグラはまさに勢いのあるバンドそのもので、その「旬」を客席は全身で楽しんでいる。 そのエネルギーが麻也たちにも跳ね返ってくる。  佳境では、ステージの上手から下手まで3人で駆け回り、 端の方の座席のファンまで完全に巻き込む。 そして麻也はお約束のポーズ、高々とギターを掲げて、ギター野郎たちまで魅了する。  悪魔の魔法は、1回目のアンコールの時だった。  麻也にとっては初めて公私ともに充実したツアーで、 諒との息もぴったりあっているはずだったが、 なぜかキスは打ち合わせ通りにはキマらず、ちょっと諒と見つめ合う瞬間ができてしまった すぐに諒は麻也の首に腕を回し、耳たぶを噛むと、ようやく口づけた。 広いホールの悲鳴と歓声は、怒涛のように押し寄せる。 「諒、ごめん。キス上手くいかなくて…」  楽屋に戻るとすぐ、麻也は謝った。諒の方も、 「こっちこそごめん。俺もぽっかり空白になっちゃって。 気をつけてるのに、初日はやっぱミス出ちゃうね。」

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