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第9章の8
だが、珍しくキスもハグもなしだ。そして、
「麻也さん、俺のわがままきいて。そしたら俺、気持ちをリセットできる気がする。」
麻也はほっとして尋ねた。
「何? 何でもするよ、俺…」
「今日の打ち上げ、一切出ないで。」
「なあんだ、そんなことか…」
とは言ったものの、本当は諒のいる酒の席が麻也は大好きなのだ。
でも仕方がない。
「で、この部屋で俺だけを待ってて。しらふで。」
「うん。わかった。約束するよ。」
ようやく諒の顏から暗い影が消えた気がした…笑顔にはならなかったけれど…
リハーサル。
まだ観客の入っていないステージの上ではドラムの調整がもたついているので、
麻也はしゃがみこみ、
その調整が終わるのを待っていると、背後から諒の大きな手に両肩を掴まれた。
「麻也さん、いい眺めだね。
俺たち、地方でもこんなにお客さんが入るようになったんだね…」
今日のホールは1500人ほどが収容できる会場だ。
麻也はそのことも、また諒が触れてきてくれたことも嬉しくて、笑顔で振り向いた。
すると、
「麻也さん、ここでキスはダメだよ。スタッフいるし。」
「もー、そんなつもりじゃないよっ! 」
すると、諒は白々しく、
「もう、しょうがないんだから…」
と、勝手に軽く触れる口づけをくれた。嬉しかった。
背後で誰かがぎょっとしている気配も感じたが、ツアー中は仕方がない。
慣れてもらおうと麻也は思う。
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