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第9章の16

 今日の客の入りは9割と聞いていた。  47都道府県ツアーと銘打ってはいるものの、 初めての場所ではチケットの売れ行きがイマイチなところも多い。 そのためもあって、東京で全国ネットのテレビにも出演が何本もあって、 ちょっとペース配分が難しい気が、麻也はしていた。  開演時間が近くなってくると、観客の熱気がステージ裏まで押し寄せてくる。 今回のツアーから、オープニングのSEは「くどい! 」と評判の、 キュアーの「キスミー・キスミー・キスミー」だ。 もちろん、ディスグラの曲の方がくどくてどろどろしているのだが。  SEが止まる。  キャー!!!    歓声。直人のカウント。「ディスティニー」が爆発する…  起爆剤にと最初に持ってきたヒット曲だったが、 ディスグラになれていない土地のせいか、観客はややおとなしめだ。 それを、諒がMCでもあおり、麻也と真樹が上手の端から下手の端まで走り… 麻也は流し目をして、さらには誘う瞳で男のファンまでノックアウトし… センターで麻也1人スポットライトを浴びてのギターソロでは、その旋律の美しさで圧倒し… 1回目のアンコールでは、すっかり緊張がほどけたらしい観客の前で、 リハーサル以上に熱いキスを交わして客席の悲鳴を浴びて…    オフ前の、3本目のライブは幕を閉じたのだった。

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