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第9章の26

 長い髪をゴムで束ねて、変装用の、度の入っていない黒縁メガネをかけて家を出た。  本人的には「大学生風」と思っているのだが、 以前、直人には「売れないマンガ家みたい」と、腹を抱えて笑われてしまった。 <売れない>までつけなくていいのに…  近所のコンビニで、そそくさと買い物を済ませた。  ひとりなのでさっさと、好物のビーフストロガノフ弁当をチョイスし、 サラダとから揚げとエクレアをつけた。  …買ってきたものをテーブルに並べ、ひとりで<寂しい>食事… でも、ちょっと新鮮かも。  それが終わると、のんびりシャワーを浴び、バスローブではなく部屋着に着替えて、 明日からの準備を始めた。 「…今度こそはあのCD忘れないようにしなきゃ…」 忙しいので、移動中に気になるCDをまとめて聴こうとするのだが、 特に打ち上げの次の日は聴きながら眠ってしまうことが多い…  諒が帰ってきたのは10時過ぎだった。 「ごめん、麻也さん、遅くなって…ちゃんとメシ食った? 」 と、言いながら、差し出してきたのは、コンビニのレジ袋で、 中には「プレミアム」のエクレアとシュークリームが入っていた。 「ありがとー。メシはちゃんと食ったよ。コンビニ弁当だけどね。諒は? 」 「うん、オフクロの手料理。」 麻也は嫉妬を隠しつつ、こう訊いてみた。 「写真いっぱい撮れた? 」

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