353 / 1053
第9章の31
次の公演地では、特にこれといったトラブルはなかったのだが、
久しぶりにバンドのエネルギーが空回りしたような感じだった。
特にロック色の強い曲や、ややマニアックな曲になるとダメだった。
アンコールの声はそう小さくはなかったのだが…
楽屋では、特に諒の落ち込みが伝わってくる。
着替えのペースが遅い。
「次のライブまでには、お客さんも消化できてるよ。俺たちのこと。」
麻也が後ろからそう囁くと、諒は振り返らずにうなずいて、
メークを落とすため、鏡に向かった。
その代わり、打ち上げに集まった人数はますます増えていた。
東京から取材にやってきたライターたちはともかく、
東京から追いかけてきた関係者もかなりいた。
成長の速すぎるバンドらしい、イマイチなライブを披露する結果になってしまったわけだが、
そんなことを引きずっているわけにもいかず、酒の席で、
様々な人を紹介され、様々な意見や感想も聞くことになる。
その中には、まあ、自分たちのことを実はあまり知らないらしい人もいて…
それはまだいい方で、あわよくばメンバーとどうにかなってしまいたい…
みたいな雰囲気を、性別問わず感じることもあった。
特に諒に近づいてくる女性は何人も…
真樹に言わせれば、
「兄貴への誘惑を俺がブロックしているのも多いんだよ。」
とのことだが…
諒は、ホテルの部屋に戻ると、また、落ち込みやイライラを思い出したようだったが、
やはり、アルコールは一滴も口にしない。
ともだちにシェアしよう!

