356 / 1053

第9章の34

 サービスエリアで食事をしながら、メンバーはぽそっと、 「ステージそのものはいつでもどこでも新鮮なのにね…。」 「バス移動とかがねえ…」 「そうだねえ、俺もここまで長いツアーは経験ないもんね…」 と麻也も言い、 「これは、景色とか、地元の名産とかに期待するしかないかも…」 それを耳にした須藤も、 「そうですよ。こんな九州の、温泉地でもない山の中なんて通ることないでしょう?  空気だって、その土地土地ではっきり違うし。」 「確かに。公演地も先に待っているしね…」 「まあ、どんな職業でも、毎日同じような日々が続くことの方が多いわけですからね。 ライブとか、強い刺激があるミュージシャンはまだ恵まれている方かもしれませんよ。」 「なるほどねえ。」  ついこの間全員で大学を中退したばかりで、 普通の社会人の経験のないメンバーはしみじみとその話を聞いた。 しかし、須藤は釘をさすのも忘れてはいなかった。 「ただ、一度でもツアーに失敗すれば、 もうこんなに長いツアーはなくなりますから気をつけて。 そういう意味では、忙しいでしょうが、 次のアルバムやツアーのことも意識しておいた方がいいかも…」 耳が痛くなる話だった。 そしてその数時間後、社長からの電話で同じことを言われ、 特に麻也と諒は、曲作りを頭の隅に置いて、ツアーを過ごすことになった。

ともだちにシェアしよう!