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第9章の38
そのうち、六本木のパーティー会場にピックアップされ、
貸切のおしゃれな店で打ち上げの1次会が始まる。
見れば、諒はオレンジジュースだ。
乾杯が終わると、麻也は尋ねずにはいられなかった。
「諒、まだ飲まないの? 」
「遠足は、お家に帰るまでが遠足です。ツアーも同じ。
2人が無事家に帰るまでがツアーです。」
「確かにそうかも。この会場でも何かあったら大変だもんね。」
「ウチに帰ったらドンペリ開けようよ。
だから麻也さん、あんま飲まないでね。」
「うん、わかった。」
「飲み過ぎた時の麻也さん、あんま美味しくないし。」
「何だよそれー! 」
すると須藤がやってきて、早くみなさんにご挨拶まわりを…と言うので、
2人はおのおの、立食パーティーの会場に散った。
麻也がいち早く近づいたのは真樹だった。
人が途切れたのを見すまして、耳元で囁いた。
「楽屋の入り口で、恵理ちゃん、早々に帰ったみたいだったけど…」
「えっ、知らなかった…ちゃんと来てくれたんだ…
兄貴、ありがと。後で電話してみるよ。」
あとは、取りあえずお腹が空いたような気もするので、
知らない人と少し話をしながら、キャビアの乗ったカナッペなど食べてみた。
すると、いつしか、グラビアアイドルのような感じの女の子が、
「麻也さん大好き」オーラを出しながら隣に立っていた。
「麻也さん、キャビア好きなんですか? 」
「うん、まあ…」
「麻也さん可愛い。ライブの時って、あんなにワイルドな表情で客席に向かって叫んでくれるのに…
すごく男っぽくて、ひと目ぼれしちゃいまし…」
「麻也、そのキャビアのカナッペ取って。」
落ちてきたエラそうな声は諒だった。
「あと、そっちのスモークサーモンも。
あとさあ、あっちからオレンジジュースももらってきてよ。」
「あ、はーい…」
(パシリかよ…)
と思いながらも、諒のところにオレンジジュースを持って戻ると、
もうすでにさっきの女の子はいなかった。
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