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第9章の56

 財布か…諒が出かけてしまった後の部屋で、 麻也はソファに転がって考え込んでしまった。  諒との暮らしが想像以上に幸せなものであるせいか、 逆に、ちょっとしたことが麻也には気になった… それは、いまわしい過去を持つゆえに、 この幸せが小さいヒビから壊れていくことを恐れているということがあるのかもしれないが…  生活の細かなことはほとんど諒にお任せ状態になってしまう麻也だが、 恭一との貧乏生活を思い出し、2人の生活に必要なお金については、 以前に諒に話し合いを求めた。 いや、ちょっと諒の様子がおかしく思えて、麻也はきちっと話さなければ、と思ったのだ。 「いくらラブラブでもさ、お金のことはきちんとしないと問題になるから… 諒は他の人と暮らしたことがないから、ピンとこないのはわかるけど…」 「…」 諒はなぜか黙り込むばかりだった。そしてどうにか、 「…麻也さんには迷惑はかけないよ…」 「うん。それは諒の人柄でわかるけどさ、でも、諒のお金の使い方、 ちょっとおかしいような気がして… 俺との事にはお金出すけど、自己投資が少なすぎない? 欲しいCDも、画集も、本も服もガマン気味で… 俺たちの給料、破格だし、すごく多いと思うんだけど。」 …言ってから、麻也は後悔した。

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