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第9章の57

諒は大翔のためにかなりの額を割いているのでは、と思ったからだ。 でも、それを忘れさせたほど、麻也を不安にさせた予想がある。 それは… (諒は、俺の知らない女の子とかに金をかけたり、手切れ金を払ってるんじゃ…) ひょっとすると、タチの悪い人間に引っかかって脅し取られているとか… それで、このまま知らんぷりをしていては2人の生活はケンカばかりで壊れるか、 行き詰るだろうと思って、麻也は一歩も譲らず、諒を見つめ続けた。 しかし、気まずいのはわかりきっているのに、諒はまだ、はっきりとは言わない。 「…麻也さんは知らない方がいいと思うんだ…」 「何で?! 変な人にしぼりとられてるとでもいうの?! 」 すると諒は大きくため息をつき、決心したようにぽつりと言った。 「…借金。事務所と、親に。」 事務所、まで言われて麻也はますますわからなくなった。が、諒は、 「俺、金もないのに、とにかく麻也さんと暮らしたくて、 黙っててしまって…本当にごめんなさい。」 頭を下げられても、黙っていたことは社会人として無責任では…と、 訳ありの麻也でも腹が立つ。 諒は年も下なのだから、せめて相談してくれれば…といっても、 「年下のやんちゃ亭主」ぶりを発揮している諒のプライドが許さなかったのだろう。 自分だって、その訳ありの部分は、 自分から打ち明ける日を諒が待っていてくれるようなのを、感じないこともないのだ。 でも、それだけに、このままごとみたいな暮らしの弱点は気になる… 「事務所に、って何? どういう金だよ? 総額は? 」 すると諒は麻也に捨てられるのを覚悟したような表情でうつむくと、 「…慰謝料。大翔の母親に…」 世間の相場の倍を、事務所と親に立て替えてもらい、それを月々返済しているのだという。 麻也は目の前が真っ暗になった。諒はまだその人の存在と切れていないのか… 嫉妬と不安で、麻也は思わず叫んでいた。

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