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第9章の61
5時を回り、外が明るくなった頃、ようやく鍵の開く音が…
そして、とにかくげっそりと疲れた表情の諒が入ってきて、
麻也は怒ることができなくなった。
「何があったの? 」
「いやー、大事件でさ。『バブーシュカ』のギターの立原さんいるでしょう?
あの人が、帰りたくないってそれをなだめすかしてこの時間さ。」
『バブーシュカ』、というのは、売れ方は中堅どころの、黒服のビジュアル系のバンドだ。
メンバーの年齢は麻也よりも3つくらい上だろうか。
MCで笑いを取ることもあるディスグラと違って、
ひたすら美しいライブ、サウンドを追及してきたバンドだった。
「山田さんとサシで飲んでたんじゃなかったの? 」
「最初はそうだったんだけど、大切な話があるからどーしても、って、
俺がいてもいいから、って、
立原さんがローディーとかスタッフとかと4人で来てさ…」
「…俺が聞いてもいい話? 」
「うん。でも麻也さんの胸にとどめておいて。」
と、諒はぐったりとソファに体を投げ出すようにして座ると、
「『バブーシュカ』解散するんだって。音楽性の違いが主なものらしいけど、
立原さんはまだ納得できないって、先輩の山田さんの前で大泣きで…」
そこで諒は思い出したように、
「そういえば麻也さん、立原さんのすっぴんて見たことある? 」
「ううん。」
「いつもはゲームのキャラみたいなシルバーのシャギーヘアに似合うキツいメークじゃん。
それがさ、すっぴんだと目がパッチリして、女の子みたいに可愛いの。
実年齢より若く見えるカンジで…」
麻也は何だかカチンときた。
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