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第8章の42★麻也王子が痛々しくても
「えっ? 麻也さんに声かけていかないんですか? 」
須藤は驚いていたが、
「うん、時間気になるから…」
適当な言い訳で、諒はその場を離れた。
鈴木や後藤に声をかけることさえ忘れ、エレベーターへと向かっていた…
「何を言われたんですか?あのタヌキおやじに。」
エレベーターに乗っても、諒はショックで、やっぱり口は開けなかった。
須藤の顔も見られなかった。
が、それも須藤には想定済みだったのだろう。
「まあ、諒さん相手だから、イヤミのひとつも言ったんでしょうけど、
引っかからないでくださいよ。」
そして、車の中で、諒はこうも言われた。
Г心配ごとなら私に何でも訊いてください。
諒さんが困ることは何も起こってないはずですよ…」
それでも、ひと言も発せられないまま、諒はスタジオに入ってしまった。
視界に飛び込んできたのは、諒にも見覚えのある真樹のシャツを借りて着ている麻也の姿だった。
休み休みセッティングをしているのが痛々しいのだが、
やっぱり声をかけることができなかった。
(今日はやっぱり麻也さん帰ってくるよね…)
またすれ違いを装うことにしようか、とも思ったが、結論は出ず…
音を合わせる時になっても、気持ちを作ることができなかった。
(どう考えてもウソに決まってんじゃん…)
でも、でも…
(…アイツはやや照れてた…その後の社長ヅラとは違ってた…)
諒は困った。誰にも言えない…
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