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第10章の5

「でも、断ったらどうなるか、俺は考えただけで恐ろしいよ。 実権を握っているのはまだ坂口社長だしな。 でもっ…」 みんなの顔色をうかがいながら社長は急いで続ける。 「もともとは大手が受けたものだから、タイアップの内容はすごくいいんだ。 一つはかなりいい時間のドラマのエンディング。 もう一つは夜の情報バラエティのエンディング。 もう一つは、深夜の大人気音楽情報番組のエンディング。 なあ? 良すぎて断れないだろ? 」 すると真樹が不満そうに、 「それは良すぎて、逆に怖いでしょう? 裏に何かあるんじゃないの? 」 真樹も…やっぱり坂口と自分のことをかなり知っているのではないかと、 麻也は密かにおののいた。 が、社長は、 「いや、あそこのグループはロックとかいいながら実力のあるバンドはいないし、 売れてるバンドは今、解散問題が起こってるって話だから、 ウチに下請けでよこしたんだと思う。」 すると、何も知らないかもしれない直人が、 「だとしたら、グループ会社じゃないこのオフィスブリッジのディスグラに、 何で白羽の矢を立てたか、ってことですよ。」 麻也はもちろん、居合わせたみんなが凍りついた。 それを見て、言った本人も真っ青になった。 (坂口の、ディスグラへの挑戦状だったら?  それならまだしも、俺に対する「温情」だったら? ) 後者の方だったらと思うと、麻也はたまらなく嫌になった が、社長は、 「い、いやあ、それは、伊尾木さんが、利用しがいがあると思ったからじゃないの。 あと、まだまだ伸びるバンドに恩を売っておいて…って感じで。 何より交換条件は、麻也には簡単なお仕事なんだよ。」 「何それー?! パートや新人社員みたーい! 」 みんなは笑いに紛れさせようとしてくれるが、麻也は笑えない。

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