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第10章の13
社長が小さい声で、今だけキス解禁~と叫んだが、ムダだった。
ようやく真樹が、
「ちょっとぉ、そんなことして解決する問題じゃないだろっ…」
さらに須藤が割って入り、
「すみませんが、次の取材にそろそろ向かわないと…」
すると諒はらしくもなく、麻也に向かって、乱暴に叫んだ。
「アンタは売れるためなら何でもするな!
ドームのためなら、ドームホテルのバスタブ磨きだってやるんじゃねーの?! 」
麻也はあまり腹も立たなかったが、諒の気が済むように、同じようにやや乱暴に言ってやった。
「ああ、バスタブ磨きくらいならいくらでもやるね! 俺は今まで…」
と過去を言いかけて、ヤバい、と気づいて言葉を変えた。
「…こんなにいいバンドでやったことないんだよっ! だから限界まで挑戦したいんだよっ! 」
それを聞いて周囲だけでなく、少し諒の表情がやわらいだように見えたが…
(いつも「売れたがり」みたいなこと言われるんだよなあ…)
まあ、これから取材場所に移動すればまた少し諒の気分は変わるだろう、
と麻也は思うことにした。
今日の取材は、なじみのライター・柴田のインタビューとグラビア撮影だった。
テーマは、今回のツアーと2度目の武道館について。
ベテランの柴田の目こそごまかせないと思うのだが、まあ、そこは自然に休戦して、
4人仲良く柴田の質問を受ける。諒と麻也は微笑みあいながら答えている時もあった。
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