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第10章の16

諒のそそるような声にも、麻也の気持ちは変わらない。 思い切り諒の体を押しのけると、立ち上がり、諒を一喝した。 「そんな色じかけや目先の快楽なんか効かないよっ! 」 「あらあら絶倫姫らしくもない。」 しかし諒はすぐに真剣な顔になり、 「そりゃ俺だってさ、全力で麻也さんの出稼ぎをサポートしてあげたいよっ! でも、仕事の出元が出元じゃない? あの会社には俺たち煮え湯をのまされたんだよ? それに、あの場じゃ言えなかったけど、麻也さんだって、あそこの今の社長に…」 そこで言葉を止めたのはどうしてなのか。麻也は恐ろしくて、諒の顔を見ることができなかった。 諒が言葉を選んでいるのも伝わってきて、ますます恐ろしくなった。 でもどうすることもできない。が、ようやく諒が、 「…その…恨みみたいなものがあるわけじゃない?  あんな事務所じゃなかったら、前のバンドももっとうまくいったのに、とかさ。 伊尾木さんももっと手伝ってくれれば、とかさ。 それが麻也さんの原動力にもなってるわけでしょ? 」 …それは考えたことがなかった…そう麻也は思った。 それ以前のレベルのバンドだったから。 でも、でも、最後は本当に頑張ったんだ…

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