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第10章の26

「話題の王子様の起用で、鈴音ちゃんの男性ファンをやきもきさせよう、 って狙いもあるから、その辺もよろしくお願いします。 特にテレビでの共演ではね。 また、楽曲の若さも期待してますが、さわやかさを特にお願いしますね。」  麻也は頭を抱え込みたい気分だったが、周囲に人がいるのでそれは思いとどまった。  ただ、作詞がアイドルに実績のある作詞家の相原という女性で、 歌詞先行で作業を進めることになったのは幸いだったが… (…この人…ヤバいかも…) 麻也よりも10才以上は年上に見える、いかにも業界人らしい女性なのに、 ミュージシャンなんかは見慣れていると思うのに、麻也と挨拶を交わすなりしどろもどろになり… その後も… (何か俺のこと、気にし始めてるっぽい、かも… 諒には隠さなくっちゃ…)  あと、別室で、作品のイメージ作りのために、特別に鈴音と引き合わせられ、 短い時間ではあったが、須藤のような感じの、いかにも敏腕といった感じのチーフマネージャーと、 若い現場マネージャーと、4人でコーヒーを飲みながら軽く打ち合わせをした。  ロングの黒髪がいかにも清楚な鈴音は、大きな瞳の美しい少女だったが、 同世代のファンに触れることの多い麻也には、特に感じるところはなかった。 それどころか、他のアイドルたちの中に埋もれてしまわないようにするにはどうすればいいのか、 ちょっと悩んだくらいだった。 そして、人見知りなのか、まだ仕事に慣れていないのか、ほとんど口を開かず、笑顔も控えめだ。 それで取りあえず、麻也は、 「鈴音ちゃんは、音楽はどんなの聴くの? 」 すると、鈴音は照れたようにうつむいて、 「あ、あの、兄の影響で、ディスグラ好きなんです。 ライブはまだ禁止、って言われていたところに、デビューが決まって…」

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