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第10章の27
はにかみながら答えるその様子は…かなりの自分のファンのように、麻也の目には映った。
しかし、
(諒が過剰反応するから…かえって意識しちゃうじゃん…)
ちょっとやりづらいかもしれない、と麻也にはマイナスイメージを抱かせた。
「…まだね、本当に原石ですが、こんな感じの歌い手ですので、よろしくお願いします。」
そう言ったのは、チーフマネージャーで、さらにはこんなことまで言われた。
「いやあ、実際にお会いしてみて良かったですよ。
こんな可愛い、いや、男性には失礼かもしれませんが…清楚な方で。
昔は女の子にモテモテと聞きましたけど、
今じゃ諒さんと本当にお似合いですもんねえ。」
面と向かって言われ、焦った麻也が笑ってごまかそうとすると、
「…諒さんとは、今も?…」
「あ、はい…」
これは鈴音に手を出すな、という意味なのだろうと気づいた麻也は、
「生活のリズムが合うのもあって、続いてると思うんですよねえ。
それにアイツは優しいし…」
と、未成年の前でも当たり障りのない事を言ってみた。
すると、麻也より少し年上らしい現場マネージャーの斉藤が、
「あ、でも、同じアーティスト同士だと、同業者同士って、何かとモメませんか? 」
「モメますよお…曲からアルバムジャケットまで…」
麻也が笑うと、チーフの方が、
「それはライブのラブシーンで仲直りなのかな? 」
「鋭いですねえ~…」
と、大人の男3人で大笑いしても、鈴音は恥じらったように笑い…
(…これは上品でいいけど…全くのファンじゃん…)
それでこんなことを言ってみた。
「鈴音ちゃんも、そのうち俺とモメるんだからねっ…」
モメる、という言葉がちょっとまずく響いたような気がしたが、
「えっ、何でですか?… 」
いきなり会話に引っ張り込まれた鈴音の可愛らしさで救われた。
「このメロディはどうも、とか、テレビで俺がかっこ悪いとか…」
「えー、私、そんなこと言わないですよぉ…」
すると斉藤がダメ出しをする。
「いや、鈴音ちゃん、いくら新人でも、妥協はダメなんだよ。」
みんなでまた笑ったが、時間だったらしく、チーフはシステム手帳を閉じると、
「まあそんなわけで麻也さん、直接ダメ出しできないときは、
この斉藤を通してご連絡下さい。よろしくお願いします…」
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