424 / 1053
第10章の32
「じゃあ諒…今度は俺に、させて…」
すると珍しく諒は、
「ううん、いいよ。麻也さん、早くシャワー浴びておいでよ。」
「えっ…? 」
麻也は思わず諒の顏を見ようとしたが…諒は目をそらしている。
「諒…どうしたの? 」
「ううん、別に…」
そう言って見せる笑顔には…かなりの疲れの色が見えた。
が、やましそうなところはもちろんない。
きっと…
麻也が諒の体調を気づかってパントマイムの再開を反対したので、白状できないのだろう。
「諒、ごめんね。俺ばかりいい思いさせてもらって。
おまけに遅くまで待たせちゃって。
レッスンでも疲れたでしょ。
もう先に寝ててよ。」
と、シャツを羽織ってバスルームに向かおうとすると、裾をとらえられた。
「麻也さん、忘れもの。」
「えっ? 」
降ってくるフレンチキス。
そして…
「おやすみなさいませ♪ 」
「おやすみ♪ 」
「洗ってあげられなくてごめんね。」
「ううん、気にしないで。」
…あんなに疲れていたのに、多分曲を作りながらではあろうけど、
自分が遅くなったのを、わざわざ待っていてくれてたなんて…
「悪かったなあ…でも、愛を感じちゃうね…」
シャワーを浴びながら、幸福感に浸っていた麻也だったが…
バスルームから出て、ミネラルウォーターを取りに冷蔵庫の前に立つと、
冷蔵庫にはノートA4サイズの貼り紙が…そこには、
・毎朝、お互いのスケジュールをもっときちんと確認すること!
・予定の変更はきちんと連絡を!
麻也&諒
「…何じゃこれ…」
バスローブ姿の麻也は、真夜中のキッチンで大笑いしてしまった。
諒の、神経質な女の子みたいな細い字では、全く迫力がなかったから…
ともだちにシェアしよう!