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第10章の35
諒がとまどいつつも自分の笑顔に喜んでいるらしいのが、
麻也にも伝わってくる。
「…で、内容は? 」
「女の人と食事することになったらついてきてほしいんだけど…」
「はあ? どこのどいつだよ、その女! 」
諒の剣幕に、昨夜のうちに、出稼ぎの時の様子を少しでも伝えておけば良かった…
と、麻也は後悔したが、でも、そんな時間もなかったし…
「あんまり怒んないで。例の、アイドルの作詞家さんだよ。それがさ…」
「…コナかけてきてるんだ。ぶっ飛ばしてやる、そんなヤツ! 」
「…いや、ほんとに誘われるかはわかんないんだけどさ、
なんか、社交辞令だけじゃなかった感じなんだよ…って、
穏便に済ませたいから諒にお願いしてるのに…」
寝不足で機嫌が悪いところにこの話題なので、諒の怒りは収まらない。
「俺のこと知ってるくせにそんなことするヤツは…」
「落ち着いてよ。諒らしくないよ。そんなことで、タイアップが飛んだら困るでしょ。
でも、こんなことなら須藤さんに頼めばよかったかな…」
そう言われると諒はあわてて、
「い、いや俺ついてくよ。作詞について教えてほしくってえ、とか言って。
それに万が一、写真週刊誌に取られた時なんか、俺が同席していた方がよさそうだし…
…って、それのどこが『恥をかく』なの? 」
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