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第10章の42

 自信たっぷりな、その少年の表情に何だか麻也は腹が立って、  「あ…の…ボーカルに魂がないねえ… せめてボーカルがもっと強くないと客が引っ張れないね…」 するとその少年…藤田冬弥…は涙目になってしまった… この冬弥というのが、有名俳優の息子、いわゆる2世だった。 顏は人目を引く、大きな瞳の整った顔立ちだが、 身長は170センチあるだろうかといったところで、 ロックというよりアイドルっぽい印象だ。 麻也がこれから取材を受けることになる雑誌「ベルティーン」にも、 人気モデルの彼氏役としてよく登場している読者モデルだという。 他のメンバーもルックスはまあまあかもしれないが… 歌謡ロックというにも個性がなく…オーラも出そうになく… 麻也は企画書を確認しながらの打ち合わせを、 早く始めたくて仕方がなくなった。 うまい話にはワケがあるんだな…自分の甘さも思い知らされていた。 「あの…山口さん、そろそろ打ち合わせ室でご指示などいただけると助かるんですが…」 すると山口もピンときたらしく、 「そうだね、その方がいいね。」 と言い、メンバーには、2曲とも練習してて、と言うと、 また麻也を打ち合わせ室に連れて行ってくれた。

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