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第11章の25
予定よりも帰宅が遅くなってしまったので、麻也は急いでシャワーを浴び、
諒とバトンタッチすると、諒がバスルームに入ったのを確かめてから、自分の部屋にこもって、
小声で電話をかけた。相手は鈴木だった。
―…麻也さん、いったいどうしたんですか。そんな小声で…
何かとんでもない秘密では…と鈴木がひやひやしているのが伝わってくる。
「いや、明日どうしても手配してほしくって…諒へのプレゼントに、ポラロイドのカメラを一台、買ってきてほしいんだけど…」
すると鈴木はほっとしたような声で、はい、とは言ったが、すぐにやや困った声で、
―でも、随分と急ですね。
「うん、今日の撮影も含めて、ちょっと諒に心配かけること多いから…早くプレゼント渡したいんだ。
で、メカといえば鈴木さんだからさ。」
―うーん、でも、申し訳ないですが、僕、あまりカメラの方は…
そうだ、石川さんのアシさんたちに訊きにいってもいいですかね?
「えーっ、お願いしてもいい?…」
電話が終わると、バスローブのままの麻也は長いふわふわの黒髪を完全に乾かそうと、
ベッドルームに入って、ドレッサーの前に座った…が…
何となく、いつもより自分の顏を見てしまう。
(育ち過ぎ…か…大人になっちゃった、か…)
あのボブの言葉が、前のバンドのアイドル扱いを思い出させて、嫌になった。
でも、今のこの環境では、もっと嫌になる。
(技術とか才能とかって、評価もされてるのにな…)
でも、「グラムあがりの美形バンド」の肩書は、アイロニーとして手放せない。
それもロックの美学だからだ。
(でも、俺一人だけ2コ上の26…お肌の曲がり角もまがっちゃったよ…)
それでも、30を過ぎてからの危機感はこんなものではないらしい、とは何となく聞いている。
しかし何より…
(姉貴に似てるっていう、この女っぽい顔が老けていくのを…諒はどう思うんだろう…)
そしてこの…ベッドの中での甘く激しい夜はどうなってしまうのだろう…
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