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第18章の72★麻也王子の宝物

 恐ろしいのは諒が怒りを隠したような表情ではなく、 時折は作った笑みを浮かべてみせることだった。 ポツポツと当たりさわりのない話だけをした。 でも朝の光に照らされる、蜂蜜のついた諒の唇や、 それをペロッと舐める舌、まだハチミツがついていたのか、 白い美しい人差し指と親指をまたペロッと舐めるのが、 みずみずしく少年ぽく見えて、 まやは初めて結ばれた時のことを思い出して切なくなった。 それが伝わったわけでもないだろうが諒は、 「麻也さん、これ、この際だから、レプリカ作りのオーダー出しちゃわない?」 これ、というのは、2人が初めて結ばれた時に交換したペンダントだった。 二人の最初の愛のしるし。 同棲を始めた時に作った小指のリングより前からある宝物だ。 麻也がもらったのはミリタリー調のドッグタグで、 諒にあげたのは小さなエンジェルのオーナメントがいくつもついているブレスレットに、 諒が無理やりチェーンを足したものだった。 合金製の安物だったがなくすのが嫌で、 レプリカを作ってそちらの方をつけて歩こうという話はずっとしていたから、 麻也はごく普通に、いいね、とだけ答えた。 しかし、自分の耳に届くとそれだけではあんまりに聞こえたので、 「ツアーが終わってから引き取りの方がいいかもね。」 と付け足した。 すると諒は大きな瞳を見開いて、 「え? どうして? 」 と、尋ねてくる。

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