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第12章の6

 席に戻ると部長が、「いい店があるから」とみんなを誘う。このままでは気まずいと思ったのだろう。  課長は、これから打ち合わせがあるということで残念そうに帰っていき、 飲み直すのは3人で、ということになった。  麻也が連れて行かれたのは「プロスト」という、照明も暗めで高級感漂う、いかにも大人向けのバーだった。 (…諒と今度来ようっと…) 密かににんまりとした麻也は、部長をはさんで山口とカウンター席に座った。  バーボンを味わいながら、温厚なたれ目の部長は、 「ここ、いい店でしょ。あ、それこそ、ライターの柴田くんに教えてもらったんだよ。」 彼とは、年齢は離れているが、大学の先輩後輩なのだという。 「彼、よくディスグラをインタビューしてるよねえ? 」 「ええ。でも、こんないい店には連れてきてくれなかったなあ…」 麻也がそう言うと、2人とも笑った。が、その時、 「ちょっと失礼。」 と、山口が携帯を持って、あわてて店の外に飛び出していった。  場をつなぐように部長が、 「そう言えば、ディスグラのレコーディングはいつから? 」 「明日からなんです。」 「え? じゃあ、そんな時に、ウチの<スナイカーズ>に今日は立ち会ってくれたの? 」 「え、ええ…」 「やあ、それはすまないなあ、じゃんじゃん飲んで。」 それに麻也が大笑いしていると、山口が急いでもどってくるなり、 「スミマセン、ちょっと野暮用で…申し訳ありません。」 と、今にも飛んで帰りそうな勢いだった。

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