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第12章の7

「えっ、どうしたの? 」 「子供が熱出しちゃって…今朝からヤバそうだったんですけど… もともと弱くって…」 「ああ、早く帰ってあげなよ。こっちは気にしないで。 麻也くんとゆっくりしていくから…」 麻也もうなずくと、それじゃあまた、と山口は飛び出していった。 それを見送ると部長は、 「…でも山口くん、今日が早上がりの日で良かったよね…」 「そうですね…」 何せ初対面で、同じ業界ということくらいしか接点がないし、 さらには緊張疲れがしてきたのか、麻也には話題が見つからない。 何となく沈黙になったが、 「…そういえば、冬弥がかなりご迷惑をかけてるみたいで…すみませんね。」 「あ、いえ…」 「でも、意外かもしれないけど、アイツ、本当に麻也くんに憧れてるんですよ。 俺も今日まで何でそうなるかなって思ってましたけど、 実物の麻也さんに会ったら、こんな美人、いや美男子だからね、その…」 そこで部長はてれ笑いしながら、赤面してうつむいてしまったのが、何だかかわいらしかった。 「いや、僕は、妻子もいるから、そっち系じゃあないんですよ…」 ちょっといたずら心が口をついた。 「ふふっ、落としちゃおうかな? 」 「あー、それは困るなあ~…」 と、部長は頭をかき、2人は大笑いした。 「まあ、まあまあ、悪いヤツではないんでね。よろしくお願いしますよ。」 「そ、そうですね…」 …その後は部長の当たりさわりのない話を聞き、2杯ほど飲んで、2人は店を後にした。

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