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第12章の15

 アルバムのレコーディングの最初は、諒の報告を受けた社長の訓示から始まった。 「…いやいや俺も油断してたけど、スタジオ前にこんな話もなんだけど、 みんなも交友関係とか共演者とのつきあいには気をつけてくれよ…」 今回の<諒の引き抜き事件>は、メンバーはもちろん、事務所のみんながショックを受けていた。 「…っと、あまりの衝撃に言うのを忘れるところだった。 また嫌な話で申し訳ないけど、知り合いとか、医者じゃない人からクスリ的なものはもらわないように。 のまないように。」 唐突な話で、みんな、きょとんとしてしまった。 須藤が話に付け加えた。 「リーガルドラッグとか、合法ドラッグって言われているものが、 業界の困った人たちの中で流行っているらしいんです。 でも、いつもの病院から、あんなものたまたま法律に引っかかってないだけで、 体に悪いのは麻薬並みだって言われました。 なので、絶対にそんなものに巻き込まれないように気をつけて下さい。」 CDがミリオンヒットを出している時代は、合法ドラッグが後に<危険ドラッグ>に認定されるとは知らない時代でもあった。 「ん? 諒、どうした? まさかそれも昨日…? 」 みんな真っ青になったが、それ以上に本人が真っ青になり、あわてて首を横に振る。 それで社長は話を戻した。 「…まあ、そんなわけで、お前たちは売れてくれたから、いろいろあって疲れもあると思うから、 でも、まだ油断できないから休みがやれないから、エステとボディートレーナーは用意したから、 それでせめて疲れを癒してくれ…」 今度は、麻也がうつむき、社長が慌てる。 「こんどは麻也か。どうした? 」

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