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第12章の17

 するとみんなは、いくら何でもそれは…と笑う。 麻也は嫌な記憶がよみがえって、笑えずひとり、黙っていたが… 真樹は笑いながら、 「心配し過ぎだよ、諒は… べろんべろんに酔っぱらってたらわかんないけど、 兄貴はそこまで外で飲まないじゃん。1人の時に。」 直人も、 「麻也さんなら棒っきれあれば安心なんじゃないの。 野球のバットとかさ。」 「そうそう、それなら酔ってても本能的に体が動くって。 小川ベアーズの4番バッタ―だったんだから。」 「そんなのいくつの時の話だよ! それに、手近にありそうなのなんて、掃除のモップくらいじゃん!」 諒の叫ぶような反論に、みんなは昨日の諒の事件の重大さを痛感して、笑いが止まった。 「…あ、兄貴は、高校で、体育の剣道も強かったよ…」 真樹がどうにか言うと、麻也はイライラしてきて、バッグを取り上げながら、 「…いざとなったらギターでもアンプでもぶん投げるさ。包丁にはぬいぐるみで応戦したし。 さ、もうスタジオに行こう。」 「ほ、包丁…? 」 みんなが知らなかった、でも諒だけには話していた麻也の過去。 諒は麻也に寄り添おうと近づきながら、 「俺がその時いたらそんな女、ぶっ殺してやったのに…」 「…って、諒、それ知ってたなら、何でそこまで心配したの…? 」 真樹には答えず、気まずさを隠して諒は須藤に話しかけた。 「エステの人はもう決まってるの? トレーナーもどんな人? 俺、面接したいんだけど。」

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