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第12章の42

「どんだけ俺が甘やかしても、完全には取れない。」 「でも、アイツは前のバンドでつらい思いしている過去も承知の上で、 お前は麻也を受け止めたんだろ? 」 と社長は言ったが、言ってすぐ後悔したように見えた。 それで諒は本心が話せたのかもしれない。 「そうですけど…でも、何度もあると、誰かと比べられてんのかな、って…」 「50半ばのオヤジと? それはないだろー…」 「でも、初めての相手が忘れられないとか…」 「諒、お前は謙虚で真面目なヤツなのはいいけど、 そこまでいくと被害妄想じゃないのか?  お前はもう、天下のディスグラの諒サマなんだぞ。 天下のギタリスト・麻也にこれ以上ふさわしい男があるかい。」  しかし…そう言って社長が励ましてくれるのはありがたいが… 確かに同期や周囲でディスグラより売れたバンドはいないが、 ディスグラはまだまだ若い。  ロック界だけに限っても、大御所は多いし、その中でも商業的に大成功を収めたミュージシャンも多い。 まあ、諒にとってラッキーなことに男性と恋愛している例は聞かないが… パワーの面に限っていえば、麻也にふさわしい大御所やエラい人は、ロック界の外にも、芸能界の外にも、 それこそ外国にも、とにかくたくさんいると思えて、諒は麻也がそういう人間のもとへ走ったらと思うと怖い。 言いかえれば、それほど麻也を愛し、崇めているということなのだが… 「…でも、やっぱり本当は、麻也さんはどう考えても俺にはもったいない人なんですよ…」 「あー、はいはい…」 「社長っ! ちゃんと聞いて! 」

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