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第12章の43

「諒、まあ、落ち着けって。お前は<歌う宝石>とか、 <東洋のデビッド・ボウイ>とか言われるほどのカッコいい男で、 優しいこともあって、その他もろもろで麻也には本当に気に入られてる。 俺や周囲はそう思ってるよ。」 しかし、諒はこれまでの不安を語りつくさなければ気がすまないようだった。 「でも、子供の養育費のこともあるから、今の俺は麻也さんにマンションやポルシェも買ってあげられないし…」 「ああ、それは大丈夫だろ。」 「なんで? 」 「いや、そんな怒らなくても…っていうのは、お前こそアイツの家に行ったことない? 」 「…なんで? 大学の時に直人と一緒に真樹の家に泊まりに行ったことはあるけど…」 そこで社長はほっとしたように、 「同じじゃんか。和風のすごい立派な家だったよな。敷地も広くて。代々あのあたりの資産家みたいで。 そんな生まれなら、ポルシェもマンションもほしくなりゃ実家のパパに買ってもらうんじゃないか? 」 兄弟の曽祖父は、先祖以来の田畑の一部を売り払って、 愛してしまった「街道一番の遊女」を買い受けたと、真樹から聞いたことを諒は思い出したが黙っていた。 「…でも前のバンドの時は、麻也さんは、お父さんに勘当されてて家出扱いだったし…」 「うーん…」 「…何より麻也さんは、やっぱり、俺の離婚歴とか、子供の存在とかに、深く傷ついているみたいで…」 「…諒。」 突然、社長の声は冷静になった。

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