597 / 1053

第12章の50

 冷たい外気に触れても、麻也の涙は止まらなかった。  でも、心のどこかで、背後のドアが開き、 「麻也さん、どーしたの? 」 と、諒が顔を出すのを期待していた…が、甘かった。 諒は追ってこない。  今の自分の感覚は、あの、恭一の見守りを知る一歩手前のものに近い。 (何で自分はあの事件から解放されない…) のどの奥から声が漏れてくるのを抑えられない… 麻也はドアの脇の壁のところにもたれかかってしゃがみこみ、大泣きしていた。  でも、でも、今の自分には、あの頃と違って、100万人近くのファンがいる… 真樹と直人もいる。  そしてたくさんの仕事仲間たちも… 「…諒を…失ってもね…」 (でも、それだって、俺の嘘の上に成り立ってる…) そう思うと、もう、あの、忌まわしい夜と何も変わっていないと気づく… (…諒の信頼も、愛も失うなら、俺なんてどうなっちゃってもいいんだ…)

ともだちにシェアしよう!