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第12章の50
冷たい外気に触れても、麻也の涙は止まらなかった。
でも、心のどこかで、背後のドアが開き、
「麻也さん、どーしたの? 」
と、諒が顔を出すのを期待していた…が、甘かった。
諒は追ってこない。
今の自分の感覚は、あの、恭一の見守りを知る一歩手前のものに近い。
(何で自分はあの事件から解放されない…)
のどの奥から声が漏れてくるのを抑えられない…
麻也はドアの脇の壁のところにもたれかかってしゃがみこみ、大泣きしていた。
でも、でも、今の自分には、あの頃と違って、100万人近くのファンがいる…
真樹と直人もいる。
そしてたくさんの仕事仲間たちも…
「…諒を…失ってもね…」
(でも、それだって、俺の嘘の上に成り立ってる…)
そう思うと、もう、あの、忌まわしい夜と何も変わっていないと気づく…
(…諒の信頼も、愛も失うなら、俺なんてどうなっちゃってもいいんだ…)
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