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第12章の83

 例の、麻也に迫りくる女性作詞家・相原には、鈴木から電話してもらい、 麻也の体調がすぐれないので、諒と直接スタジオに行くと伝えてもらった。 諒は、相原にだけ見える場所で、麻也と手つなぎしたり、麻也とのキスを見せつけたりしたいと浮かれていた。  諒はさらに、冬弥の方のレコーディングにも一度立ち合いたいと言ったが、 これは冬弥を刺激してしまって逆効果と思い、さりげなく断った。 が、諒の疑念は晴れない。 「山口さんの手前、隙は見せたくないんだよ。 そんな、いざ追い詰められたら恋人のミュージシャンに頼るのか、なんて… 思われるだけでも、俺、耐えられない。」 口から出まかせだったが、言ってみると、確かに本当だな、と麻也は心の中で苦笑した。 諒もそれには理解を示してくれた。 「そうだよね…先輩プロデューサーには弱味見せたくないよねえ…」 さらに、鈴木にもずっとはりついてもらうということで、 諒はしぶしぶ承諾した。 自分のハードスケジュールも動かしようがなくなっていたからだ。  ミーティングの後は、リズム隊はリハーサル、麻也と諒は腕がなまった分、 それぞれ自主練やボイストレーニングだった。

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