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第12章の104
このまま起きてしまおうかと麻也は一瞬考えたが、やっぱり疲れてはいるので、
また毛布にもぐりこんでしまった…諒が寒くないよう毛布の襟元を直してやってから。
…と、すぐに目覚ましが鳴り…
諒が須藤からのモーニングコールに何とか出たのを感じ…
また一日が始まった…
6枚目のシングルは売上90万枚を突破したというが、
社長たち幹部からは「めでたさもなかばなりけり」といった雰囲気が漂ってきた。
それはスタッフたちが隠してもメンバーにはひしひしと伝わってくる。
そう大きくはないレコード会社と事務所にとっては「ミリオンセラー」は悲願であり、
それに近いのはディスグラが唯一のアーティストだとはわかってはいるのだが…
レコーディング中の麻也にはまたつらい出来事となり…
(次がまたダメだったら、俺たちどうなっちゃうんだろう…
いや、でも、直人も言う通り、これはこれで本当にすごい数字なんだけど…でも…)
帰宅するみんなが先に出ていってしまった後の、スタジオの控室のソファの上で、
麻也はそんな考えをやめることができなくなった。
(…でも、俺たちはやる。俺はみんなを引っ張らなきゃならない。)
そして、また、あの…事件が頭をよぎり…
(ミリオン出せば、俺はアイツを見返せるのか…?
伊尾木専務と組んで、アイツを追放できるとか…)
次から次へと思いは絡まっていく。
(…諒にもつぐなえるだろうか。俺は諒にふさわしい男になりきれるんだろうか…)
そこではっとする。
(…諒の曲が先に、ミリオンになったら…)
諒と自分の関係は、どうなるのだろう…
「麻也さん…」
気が付けば、諒が戻っていた。
麻也があわてて立ち上がると、諒はぎゅっと抱き締めてくれた。
そして、こうささやいてくれた。
「みんな待ってるよ。早く帰って、体を休めましょ。」
それだけ言うと、笑顔で麻也のバッグを持ち上げ、肩を抱いてくれた…
(この章終わり)
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