654 / 1053
第13章の3
移動の車の中の時間も、鈴木の横で、また麻也は考え込んでしまう。
麻也自身、大きな事務所に入ったことはあっても、
これほど多くの人脈とつながったことはなかったから、
いくらメンバーやスタッフと気を付けあっても、
思いも寄らなかった誹謗中傷が聞こえてくる。
真面目に音楽に取り組んでいるバンドとはいえ、まだメンバーはみんな若かった。
それとあいまって、一番背の低い麻也でも174センチの、
高身長でプロポーションも顔立ちも整ったメンバーは、
ロックらしいいでたちでも、アイドル視されることも多い。
それも悪いのか、妬みも聞こえてくるわけで…
(何で諒が業界のドンの愛人だよ。諒と俺が、エラい人と寝て、
ヒットチャートを買った、だよ…)
確かに諒も自分も性別を問わず、おエラい人からも誘いを受けるのは事実だが…
周囲はみんな守ってくれている。
…特に、諒…
諒のぬくもりが恋しくなる…
悔しさに麻也が唇を噛んでいると、鈴木が雰囲気を変えるように、
「そういえば、諒さんと麻也さん、また雑誌の仕事が入ったんですよ…」
麻也はどうにかおどけて鈴木の肩に頭を預けた。
用意される仕事の量は、キャパシティをもうとっくに越えている…
でも、不遇だった頃が忘れられない麻也は、ため息をつくこともできるだけ自粛している…
「…ん、もう、諒さんに怒られますからやめてください。で、仕事は…」
ともだちにシェアしよう!