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第13章の12
そこにやってきたのが、共同プロデューサーの山口だった。
「おはようー…見てほしいところがあって…
あ、俺おごるよ。麻也くんも鈴木さんも、どれがいい? 」
「いえ、たまには僕が…」
「いやいいって。なかなか飲みにも連れてけないから…」
すると山口は、自販機のディスプレイを眺めながら、
「そういえば、他の仕事の帰り、不思議な光景に出くわしたんだ」
いかにも高そうな割烹から、冬弥が40絡みの美人女優と出てきたのだという。
「鈴木さんならわかるかな? サスペンスによく出てる、関村響子、って人。」
「ええ、わかります…」
山口が背を向けているのをいいことに、二人は目くばせして諒とのことは伏せた。
「で、親しげに立ち話してて…冬弥が俺に気が付いて、挨拶してきて、
その人のことも紹介してくれてるうちに、彼女の旦那さんの大物脚本家と、
冬弥のお父さんが出てきて挨拶してくれてさ…
何だか、俳優の仕事も視野に入れてるみたいなこと言われて…」
振り向いて缶コーヒーを渡してくれながらも、山口は不快そうな口調だった。
「本人は困り切った表情だったけどね…
まあ、俳優っていっても、若い人向けの映画とかもあるんだろうけど…」
3人とも、コーヒーを持ったまま、黙り込んでしまった。
「…最初はびっくりしたけどね。アイツに熟女が落とせるとは…なんてね…」
麻也と鈴木は作り笑いになってしまった。
「本当は、子供のいないご夫婦が、友達親子といるのが嬉しい、みたいなとこなのかな…」
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