663 / 1053

第13章の12

そこにやってきたのが、共同プロデューサーの山口だった。 「おはようー…見てほしいところがあって… あ、俺おごるよ。麻也くんも鈴木さんも、どれがいい? 」 「いえ、たまには僕が…」 「いやいいって。なかなか飲みにも連れてけないから…」 すると山口は、自販機のディスプレイを眺めながら、 「そういえば、他の仕事の帰り、不思議な光景に出くわしたんだ」 いかにも高そうな割烹から、冬弥が40絡みの美人女優と出てきたのだという。 「鈴木さんならわかるかな? サスペンスによく出てる、関村響子、って人。」 「ええ、わかります…」 山口が背を向けているのをいいことに、二人は目くばせして諒とのことは伏せた。 「で、親しげに立ち話してて…冬弥が俺に気が付いて、挨拶してきて、 その人のことも紹介してくれてるうちに、彼女の旦那さんの大物脚本家と、 冬弥のお父さんが出てきて挨拶してくれてさ… 何だか、俳優の仕事も視野に入れてるみたいなこと言われて…」 振り向いて缶コーヒーを渡してくれながらも、山口は不快そうな口調だった。 「本人は困り切った表情だったけどね… まあ、俳優っていっても、若い人向けの映画とかもあるんだろうけど…」 3人とも、コーヒーを持ったまま、黙り込んでしまった。 「…最初はびっくりしたけどね。アイツに熟女が落とせるとは…なんてね…」 麻也と鈴木は作り笑いになってしまった。 「本当は、子供のいないご夫婦が、友達親子といるのが嬉しい、みたいなとこなのかな…」

ともだちにシェアしよう!