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第13章の13

   その頃、諒は、レコーディング中だというのに どうしても自分のボーカルに納得できない箇所があって、 ヒントをもらおうと、ボイストレーニングの師匠の大橋の指導を仰いでいた。 大橋は、諒ぐらいもある長身の、声質も落ち着いた声の男性ボーカルだったから、 諒には学ぶべきところが多い。 2週間後の、ソロでの音楽番組<音楽の夜>の用意は最後に見てもらうつもりだった。  …とそこへ、ドアをノックする音が…  緊急事態…一体何が…  大橋が急いでドアを開けると、廊下で待っていたはずの須藤が、真っ青な顔で立っていた。 そして、 「申し訳ありません! ソロの<音楽の夜>、2時間後にスタジオ入りになりました…」 「ええーっ!? 」 これにはさすがの諒も驚くばかりだった。 「どうして…? だって2週間後って…」 「他の出演者に色々あったみたいで、何としてもと…」 「今日じゃなかったら、またいつか、になりそうだったんでしょ? 」 大橋が助け舟を出してくれた。 いつもの冷静さはどこへやら、須藤は元気なくうなずいた。

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