670 / 1053
第13章の19
しかしどうにか諒は笑顔を作り、
「ごめんなさい。これからレコーディングの続きで…
ボーカル録りなので、休めなくて…」
絶対に諦めさせたくて言ったのだが…この日の響子はいつもと違っていた。
「じゃあ、手短かに言うけど、麻也くんを何とかした方がいいと思うわよ。
あなたやバンドに傷がつくと思うもの。」
…思いもよらない言葉に、一瞬、諒のガードは途切れた。
「麻也くんは、最初があんな事務所だったから、この業界をナメてるのよ。
マンションだ、ポルシェだって買わせて、社長の気持ちを手玉に取って離婚までさせて。」
響子の言い方は<断言>だった。
これまで諒が地方でまで聞いてきた<~ってウワサよ>というレベルではない。
それに、離婚の話は初めてだった。
諒は言葉を失うだけだった。
「でも、みんなはそう言うけど、麻也さんの実家はすごい金持ちだし、そんなことしなくても…」
「…前のバンドを延命させるためよ。そのために抱かれてたのよ。あんなに綺麗な子だもの。
社長は彼が可愛くて何でも与えてた。
でも、麻也という人は、社長のいない間にマンションには女のコは連れ込むし、車の中では…」
その先は女性として、口にするのははばかられたらしい。
「…まあ、腹いせだったんでしょ。だから今でも、バンドの外ではそんな調子だし。」
ともだちにシェアしよう!