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第13章の50

 香水の壜。    シャネルの<エゴイスト>。いつもの<プラチナム>の方ではない。 (何これ…) 言葉を失ったまま諒が手渡すと、 「ありがとう。」 と、目をそらしたまま麻也は受け取ると、だるいせいか、 らしくもなく無造作にバッグに突っ込んだ。  それでも諒は麻也にカフェオレでも飲ませようと、 香水のことになど触れず、麻也をソファに座らせようとした。 すると、諒は麻也に服を引っ張られ、隣に座らせられた。 そして、肩に麻也の頭を預けられた。 「…諒…」 「なあに、麻也さん? 」 「…いろいろあるのかもしれないけど、諒、俺のこと信じてよ…」 そう言われると、諒の胸は苦しい。 何より、 (麻也さんがこんなこと言ってくるなんて…)  きっと麻也も被害者なのだ。  加害者になったことはおそらく、ない。  諒は、うん、と言いながら、麻也の体を抱き寄せた。  ぬくもりが気持ちいい。  するとしばらくして、麻也の寝息が聞こえてきた。  少しだけ寝かせてあげよう、と諒は麻也を抱えた手に力を込めた。

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