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第36話
楽しそうな涼介の声が落ちてきた。
ちょうどの意味が泉にはわからなかった。ただリズミカルに浅く緩く腰を動かされて、段々と後孔から感じる疼きは強さを増してきた。
「っ、ふぁ……んっ、な、なに……っ」
半身を弄られれば気持ちいいのは当然だが、それとは違うものが後ろの方から感じる。
たっぷりローションで濡らされていたせいで律動のたびに水音が響き、涼介のモノが内側を擦るたびに刺激が駆け抜ける。
「前立腺。知ってる?」
前と後ろから湧いてくる快感に泉は身体を震わせて堪える間もなく喘ぎをこぼす。
「ぜんり……つ……」
一貴に恋をして同性での恋愛について調べた。男同士のセックス――その中にあった前立腺。もやがかかる思考の中でそのキーワードに肩が跳ね上がる。涼介がその単語を言う前に、泉の思考を掠めていた。
個人差はあるらしいが気持ちよくなれるトコロ。ソコは本当に気持ちいいのだろうか、と。
「そ。ココ。気持ちいい?」
「……っ」
顔を覗き込まれて泉は小さく首を振り唇に拳を当てる。
気持ちいいとはっきりわかるのは前への刺激だ。涼介が訊いてきた場所。そこを的確に突いてくる涼介の動き。そのたびに妙な疼きが湧き上がる。それは気持ちいい、とは言えないものだ。
「じゃあ痛い? 気持ち悪い?」
問われて泉は逡巡して、また首を振った。
はっきりとした快感と比べたら気持ちいいわけではないが、気持ち悪いとか嫌悪感は一切ない。
「ふーん」
口調は軽いものなのに、思わずといったように涼介がニヤッと笑った。泉の半身から手が離されそれが泉の口元へとやってくる。唇に触れた指先が濡れている。 そのまま半開きになっていた咥内へと入り込み泉の舌をくすぐる。微かな苦みが走り泉は眉を寄せる。
「よかった。気持ちよくなれそうで」
戸惑っているとあっさりと指は引き抜かれ、頬を撫でられ髪に触れられた。
「……気持ちよく……って……」
くしゃりと泉の髪を指に絡めたあと涼介が泉の唇を塞いできた。濃厚に絡みついてくる舌。同時に再びゆっくりと涼介が腰を動かしだす。前立腺を擦りあげる硬いものが少しづつ奥へ来ているような気がした。
痛みより圧迫感。その圧迫感はだけれど最初よりも少しだけ薄れていた。いや慣れたというほうが正しいのかもしれない。深く侵入することなく浅く動き続けていたせいか馴染みだしている。
「ンン……」
息もできないくらいに激しいキスを与えられて飲み込み切れない唾液が唇の端から伝い落ちていく。覆いかぶされているせいで涼介の手に触れられてはいないものの互いの腹部に泉の半身は擦りつけられもどかしい気持ちよさに先走りを溢れさせていた。擦れあうリズムはイコール涼介の律動だ。どれほど中に挿っているのか泉には考えられないが、気持ちいいとは言えないが気持ち悪くもない――妙な疼きを発生させるところをずっと硬く擦られ続けるとキスや半身から発生する快感に混ざり合っていくような気がした。
気持ちいい、のかもしれない。
無意識の中に浮かび上がってきた感覚。
狼狽えるように泉は涼介の肩にしがみつくように手を置いた。同時に、ぐ、と息詰まるものを感じてその手に力が加わる。
また、だ。もしかして、と泉は快感に飲み込まれながらも後孔にわずかに意識を向ける。まだ苦しさはあるが段々とその存在に慣れてきた熱いものが、先へ進んできている。芯を持ったモノがじわじわと侵入してくる。
つい泉が爪を立てると、涼介の唇が離れていった。いつでもまた触れられるくらいの距離で見つめ合う。
いつの間にか涼介の眼差しは激しい欲情の色をたたえていた。
「りょ、すけ……さんっ、中っ」
浅い律動が、ストロークが長くなっている。挿ってくる感覚と、引き抜かれる感覚が延びていっている。
涼介は熱を帯びた吐息をつきながら小さく笑う。
「わかった? 挿っていってるの」
「俺、ムリ……って」
「一番太い部分挿れちゃえばあとはそうでもないよ。ほら、ね?」
涼介の動きが止まり、泉は生々しい硬さを自分の体内ではっきり感じた。先だけじゃない、どれくらいかはわからないがいつの間にか埋められていた半身。
「で、でもっ……ひゃっ、ぁっ」
ズル、と引き抜かれる感覚に声を上げていた。ぞくぞくと腰のあたりを這う刺激。浅い時はあまり感じなかった身震いするような喪失感に唇を震わせているとすぐにまた挿ってくる。また少し奥へと。そしてそれが繰り返される。
「……っん、ぁっ、苦しっ」
「……でも今度は萎えてないよ、ココ」
嬉しそうな涼介の声が響いた。
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