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第37話
泉は言われて自分の半身を見る。そこは確かに勃ち上がったままだ。最初挿れられたときはすぐに萎えてしまったのにいまは腰を押し進められてもそのまま。
苦しいのは嘘じゃないのに、どうして。
自分のことなのに呆然と揺れる半身を眺めていたら突然耳朶を噛まれた。
「ひゃっ」
「泉くんのナカ、すっげぇ熱くて気持ちいい」
俺のカタチわかる、と耳元で涼介が訊いてくる。熱を帯びた声が敏感に耳をくすぐる。
カタチ、形。
目を白黒させてつい意識してしまった。そんな前じゃなく、手に触れた涼介の半身。硬く熱かったアレがいま自分のナカに挿っている。
「……いまめっちゃ締まった」
心臓が大きく跳ねた、そのすぐあと涼介が泉の顔を覗き込み嬉しそうに囁いた。
「なに考えたの?」
「……っ、な、なにもっ」
自分はなにか考えたのだろうか。
泉は熱くなる頬を隠すように涼介から顔を背けた。小さな笑い声がして首筋に唇が押し付けられる。吸い付かれて身体が震える。どこもかしこも少しの刺激で反応してしまうことに気づいた。
「泉くん、ね、動いていい?」
首筋を辿る唇がまた耳元で止まる。ちゅ、とリップ音をたてて耳にキスされる。
ぐらぐら、クラクラ、頭だけじゃなくて全身がどうにかなってしまいそうな予感に泉は唇を噛みしめながらそっと視線を涼介に戻す。
「……うご……いて……るじゃないですか……ずっと」
少し恨みがましい目になってしまう。ゆっくりと少しづつだが確かに涼介の腰は動いていて、腰のあたりの疼きに掠れた吐息混じりの声を絞り出す。
「もっと、動きたい。いい?」
ここまで強引に進めてきていまさらじゃないのかと泉は思わず思ってしまう。
「いまさら、だけど」
そしてすぐに思考を読み取ったように涼介が笑いながら甘えるように今度は唇についばむようなキスを優しく何度も落としてきた。
本当にいまさらだよ。
胸の内で一瞬呟くが、与えられるキスに思考が溶けていく。それに気づいたようにキスが深くなっていって泉は抗いがたい快感にどうしようもなくキスの合間に呟いてしまっていた。
――少しなら。
途端に息ができないくらいに唇を塞がれ舌が吸い上げられる。緩やかだった律動が速度を増していった。
「ふ……っぁ、くるし……ぃ、っ、ん」
リズムよく腰を打ち付けられ、奥へ奥へと進んでくる涼介の半身。お腹に響く鈍い痛みのような圧迫感に、突かれるたびに声が漏れてしまう。だけどそこに混ざる今日初めて知る感覚。
涼介はナカを抉るとき必ず前立腺を先端で擦りあげるようにしてくるのだ。
「もうちょっとしたらもっと馴染んで、ヨクなると思うよ」
本当に?
苦しくさよりも気持ちいいほうがいい。当たり前のことに、無意識に縋るように涼介を潤んだ目で見上げる。そして意識は密やかに生まれる快感をつかみ取ろうと疼く箇所に集中する。
「……エロ」
思わず、といったように涼介がぼそり呟いて突然一気に引き抜かれた。
「んっ」
勢いよく抜けていった、それだけなのにゾクゾクとしたものが背を這う。圧迫感も、内臓をかき回されるような苦しさもなくなったのに逆に疼きが強くなる。
「泉くん、うつぶせになって」
促すように涼介の手が背に回って力を込めてきた。とっくに抵抗する思考も力もなくなっていた泉が言われるままに身体を反転させる。と、すぐに腰を持ち上げられる。
あ、と思ったときにはさっきまで体内に含まされていたものがまたあてがわれて、その熱に震えたとたん貫かれた。
「っ、ンっ、ぁ」
前からよりもずっと奥深くまで挿ってきたような気がする。
片手を腰に添えられて抽挿される。肌同士がぶつかるたびに響く音と、内側に響く衝撃。漏れる声。
翻弄されるしかできなくて泉はシーツを握りしめ、自分の高い声に羞恥して唇を噛みしめる。
「……っ!」
涼介のもう片方の手がするりと腰を撫でて内腿へと滑りこむ。それまでずっと放置されていた泉の半身が握りこまれた。
「ひっ、涼介さ、んっ……やめっ」
「なんで?」
恐ろしいくらい敏感になっているのを知った。ぬるぬると興奮していることを自覚させられる感触。穿たれながら掌で擦りあげられると圧迫感や苦しさが遠のいていきそうで、それが逆に怖い。
「男なんだから、弄られたほうが気持ちいい、でしょ」
涼介がのしかかってきて背筋に唇が押し当てられる。舌が這って舐められて、半身を擦られて、中を抉られて。
「あっ……、っあ、うぁ……っ」
耐え切れずに泉の口からひっきりなしに喘ぎが漏れ始めた。
「やば……あんまりもたないかも」
少し余裕をなくした熱っぽい涼介の声が肌に落ちてくるが泉の耳には届かなかった。
与えられる快感に目眩のような射精感を覚え始める。
どうしてこんなことになったのか、なんでこんなことをしてるのか。すべて飛んでしまっている。
背中にのしかかる身体。自分と同じ硬い身体、肌を滑る熱い吐息、半身に絡む長い指、突き上げてくる太いモノ。
どんどん追い詰められていく。初めてだというのにすべて飲み込んで、未知の世界に放り込まれようとしている。
そんな感覚に襲われて、不安が少しーー興奮が半分以上。
「……っ、泉くんっ……イッていいよ?」
同じように興奮に息を乱した涼介が律動を速めていく。
急激に目の前がチカチカして、泉は身体を強張らせる。
「ーーぁ、っ、う、ぁっ」
グン、と力強く突き上げられて、そして、一気にすべてが弾けた。
視界が白み、強烈な解放感と快感に包まれる。
吐精と、それだけではないものを感じながら全身を震わせ泉はベッドに沈んだ。
ーー気持ちいい。
脳裏に浮かんだのはそれだけ。
余韻を味わいながらも、それはすぐに真綿に包まれるように意識とともにゆっくりと暗闇に沈んでいったのだった。
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