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第38話

「んー……」  ごろりと寝返りを打った。温かいものに触れて、泉はなんだろうと眠りから覚める。  まどろみながら視界に素肌の背中が映った。すうすう、と微かな寝息と背中がそれに合わせて上下しているのがわかる。 「……」  ごろり、とまた寝返りを打つ。背中に背中を向けて、一秒、二秒、とはっきりしていく意識。 「……ッ!?」  肩越しに振り返って、声を上げそうになって口を押えた。  ここどこ、なに、いったいなんなんだ。  頭の中を埋め尽くす疑問。パニックになった頭がツキンと痛む。それは二日酔いの症状に似ていてようやく泉はきのう涼介と飲んだことを思い出した。  そう、だ。きのうは久しぶりに友人たちと飲んで、そのあと涼介の家へ来て、そして――。  そこでさらに、気づく。まとわりつくシーツの感触がダイレクトなことに。  え、俺、なにも着てない?  え、てか、隣にいるの、涼介さん、だよな。  え、と。  恐る恐るほんの少し肘をついて身体を起こし、涼介のほうを伺う。途端に腰が痛んだ。鈍い痛みと――尻に違和感。  そこでまたさらに、気づいた。いや、思い出した。 『……っあ、あ、んんっ』  自分の嬌声と、涼介に――。 「っ、わぁ!!」  堪らず叫んで飛び起きるようにして、ベッドから転げ落ちてしまう。重い音が響いて、それに反応するように、んん、と涼介が寝返りを打つ。  起こしてしまった? いや、いまはまだ起きないでほしい!  パニックになっている頭の中で祈るように思って泉は息を止めて涼介の様子を見つめる。  だが願いやむなく、涼介が重そうに瞼を上げてぼんやりと泉を捉えた。 「……んー、泉くん、起きたの? いま何時?」  ふぁ、と欠伸をしながら涼介が眠そうに訊いてくる。泉は、えっえ、と狼狽えながら視線を走らせ壁時計に気づいた。青と白のオシャレな壁時計は11時半を指していた。 「え、と、あの11時半です」 「……もうお昼なんだ」  呟いた涼介が身体を起こして伸びをする。上半身があらわになって、視線を泳がせれば腰のラインが目に移り、下半身も裸なのだ、と知る。  泉も裸で、涼介も裸。  まざまざと脳裏にきのうのことがよみがえる。  なにした、ってナニした?  二度三度と寝たりなさそうに欠伸を続けた涼介が思い出したように泉のほうへと身を乗り出した。 「泉くん、身体大丈夫?」  ベッドの上から見下ろされて泉は一瞬呆けて自分を見下ろし慌てて股間を隠す。 「だ、だ、だ……」  大丈夫って言っていいのか?  上擦った声はそのまま意味をなさない言葉しか出せずに、口をぱくぱくとさせる。そんな泉に吹き出す涼介。 「ほんっと、かわいー。ごめんね、酔った勢いで泉くんの初体験奪っちゃって」 「っ!」  泉が目を剥くと「反省はしてるよ。後悔はしてないけどね」と涼介は微笑んでベッドから下りた。  固まる泉の前を通り過ぎて涼介はクローゼットを開けている。動けない泉は気配だけを感じていたらしばらくしてポンと足の上にいくつかの衣類を乗せられた。 「新品のパンツと、あとTシャツ、と短パン。タオルは洗面所にあるの適当に使っていいからシャワー浴びておいでよ。泉くんきのう寝落ちしちゃったし、汗べとべとでしょ」  スッキリしておいで、といつの間にかルームウェアを着込んだ涼介が顔を覗き込んだ。 「俺、ごはんの準備しておくから。ね。バスルームはトイレの横ねー」  軽い口調の涼介はいつも通りで、泉は固まっていた首をぎこちなく縦に振った。  それににっこりと涼介が笑って頭を撫でる。一気に顔に熱が集まって視線を逸らすと、借りたシャツたちで身体を隠すようにして立ち上がった。 「シャ、シャワーお借りしますッ」  頭を下げてダッシュでバスルームに向かった。  もつれそうになりながらバスルームに入って、一人きりになってようやくホッとする。  心臓は壊れるんじゃないかというくらいに早くて狼狽えるように身体が落ち着かない。 「……初体験……?」  涼介の言葉が甦って、顔を真っ赤にした泉は頭を掻きむしった。  本当に、ヤった?  シた?  シ、た。  何回もしたキス。触れられた触れた互いの半身、その硬さ。そして貫かれた衝撃。重なり合った身体。  初めて味わう絶頂。  まざまざと思い出されて、 「む、む、むりっ!!」  恥ずかしさといまの状況を受け入れきれずに思わず叫んでいた。 *

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