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第11話

 言ってしまった、認めてしまった。  誰にも知られない気持ち。そのはずなのにあっさりバレて、認めてしまった。 「わりと最初から? もしかして一目惚れとか?」  涼介の手が伸びてきて泉が握りしめたままの空のグラスを取っていく。それに新たに作られる水割り。 「……そ、そうです。面接のとき店長に出会ったとき……一目惚れして」  個室だから気兼ねなく話せるにしても、恥ずかしさで声が小さくなっていってしまう。いままで恋愛経験がない上に、友人たちともそういう話が出ると聞き役に徹するだけの泉だった。  だから自分のことを――一貴への想いを話すことに緊張するしむずむずするしで落ち着かない。 「へぇ。一目惚れ。ドラマみたいだね」  水割りを渡され飲みながら、まますます恥ずかしくなっていく泉はうつむいた。 「本当に……自分でもびっくりでした。いままで……その、全然……こんなことなかったのに……店長に出会ってこんな簡単に好きになるなんて……」  やばい、顔がめっちゃ熱くなる。  泉は火照る顔を必死に掌で擦る。 「……全然?」 「は、はい。俺……は、は、初恋ってやつで」  言ってしまった。  羞恥を押えるようにまた酒を飲む。  いつもより明らかに飲みすぎている気はするが飲まずにはいられない。 「いままで……ゲイかもって思って……恋愛から目を逸らしてたのに……店長に一目惚れしちゃって……」  きっといつかは認めなきゃいけなかったこと。  20歳のいままで目を逸らしていたのだから遅いともいえるのかもしれない。  認めてどうなるんだろうと不安だったが――それでも好きだという感情は幸せなものだと知った。 「……店長に仕事で会えるだけで嬉しいんです」  こうして誰かに話せるということも幸せなことなんじゃないか。泉は酔いでぼんやりする思考の中でそう思った。  ちびちび飲みながらそう言えばさっきまでと違い涼介の反応がないなと顔を上げると、ポカンとしている涼介がいた。 「え、ガチに初恋? 経験少なそうと思ったけど、初恋? もしかして全然経験もないの?」  経験少なそうの部分に少し傷つくが事実そうなので「はい」としか言いようがない。 「早川くん、男が好き、でいいんだよね」 「……そ、そうです。そうかもしれないって前から思ってはいたんですけど、店長ではっきり自覚しました」 「……ふうん、そうなんだ」 「遅い……ですよね」  二十歳になって初恋とか――童貞だとか。  酒のせいで熱を帯びたため息をついて泉はずるずるとテーブルに突っ伏した。  皿が音をたてるが気にする余裕もない。  店長のことを好きなんです、と言葉にならず思う一方で――眠くてたまらなかった。 「うーん……まぁそこは人それぞれだからいいんじゃないかな。俺は可愛いと思うよ」  可愛い? ってなんだろう。  ぽんと頭になにか乗ってきて、それが頭を撫でて、涼介の手だと知った。 「先輩が初恋か……。未経験でとんでもないハードル高いところに行っちゃったね」 「……」 「先輩は難しいと思うよ」  知ってる。だって店長はノンケだ。それくらい俺にもわかる。  口は重くて開かず、泉は心の中で返す。  恋人いるしね。  す、と涼介の声がふわふわした意識の中に滑り込んでくる。  恋人、いるんだ。そりゃそうだよな。恋人……いるんだ。 「ねぇ早川くん、俺さ――……あれ? 早川くん? 大丈夫? 水飲む? え……」  恋人いるよなぁ。  店長かっこいいもん。  ふわふわした中で考えながら――涼介の声は届いてこず、泉の意識は眠りに落ちていった。 ***

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