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第12話

 ゆさゆさと揺れてる。揺さぶられてる。 「……ん」  身体が大きく揺れて、気持ちよさに漂う泉の思考も大きく揺れる。 「――……くん」 「ん……」  大きく揺すられて「んんー」と泉は声を上げた。 「気持ちよさそうに……」  そうだ、気持ちいい――。 「寝てるところ悪いけど。起きて! 早川くん!」  ひときわ大きく揺すられてパッと泉は目を開けた。  心地いい眠りの中から一気に起こされた意識。視界に眩しい日の光が入ってきて逆光の中泉を見下ろしている涼介が映る。  スーツ姿じゃないラフなスエットを着た涼介に泉は何度も目を瞬かせた。 「おはよ、早川くん。寝つきは恐ろしくいいけど寝起きはすごく悪いんだね」  見慣れない天井。そして部屋。そうだ、部屋だった。  明らかにベッドに寝ている。昨日、涼介と飲みに行ったはずだ。  だが途中で記憶が途切れている。  ベッドとチェスト、パソコンラック――。見知らぬ部屋。その中に時計を見つけ6時半だと知る。夜のわけがない。当然朝だ。 「きのうのこと覚えてない? 俺のペースで酒飲ませてたのが悪かったのかな、ごめんね、突然途中で寝ちゃったんだよ。家知らないから俺の家に連れて来たんだ。もっと寝せてあげててもよかったんだけど今日のシフト知らないし俺も仕事だから」  理解するにつれて青ざめ泉は跳ね起きた。 「す、すみません!」 「ううん。こっちこそそんなに飲めないって言ってたのに俺のペースで酒進めてごめんね。それに服も着替えさせてあげられなかったし」 「へ? いや、全然! 大丈夫です!」  見下ろせば確かにきのう来ていたデニムとティシャツのままだ。  皺になってるが気にすることでもない。 「二日酔いは?」 「へ、平気です!」 「そう。よかった。朝食用意してるから顔洗ってきて」 「は、はい!」  泉に洗面所の場所を案内してもらって慌ただしく顔を洗う。  涼介の家は1LDKのようだった。泉が住む1DKのコーポよりも綺麗で広い。寝室も整理整頓されてたし、バスルームも広そうだ。  10畳ほどはありそうなリビングに入るとダイニングテーブルでコーヒーを飲んでいる涼介が軽く手を上げた。 「大したものじゃないけど、どーぞ」  テーブルにはフレンチトーストとサラダ、フルーツヨーグルトが並んでいる。  呆気にとられながら泉は席に着き手を合わせた。 「ありがとうございます。いただきます……。あの、これ八木さんが作ったんですか?」 「うん。そーだよ。一人ぐらいして長いし、このくらいたいしたことないよ。それに俺朝食はきっちりとらないといやなんだよね」 「すげー。俺トーストくらいしか」 「早川くんも一人暮らしじゃなかったっけ」 「そうなんですけど。自炊……全然上達しなくって」  涼介の作ったフレンチトーストはチーズとハムが挟んであっておいしさに泉はまた驚いた。 「すっげ、うまい」 「そ? よかった」  料理上手でいいところに住んでいて性格もいい。  涼介は絶対にモテるな、と改めて涼介を見直す泉。  フレッシュフルーツが入ったヨーグルトも美味しくてぺろりと食べてしまう。 「早川くん今日のシフトは?」 「今日は昼からなんです。一旦家帰ってから行きます」 「そっか。よかった。じゃ一緒に出ようか」 「はい!」  食べながらきのうの居酒屋でのことをいろいろと思い出しかけるがいまはやめておこう  無意識に泉は考えないようにし朝食を味わった。  インスタントコーヒーじゃないらしいコーヒーも美味しく、日ごろの泉にはありえないゆったりとした朝の時間だ。 「ごちそうさま」 「ごちそうさまでした!」  空になった食器をキッチンへ運んでいく。キッチンもきれいにされている。  泉が使わないような調味料などが並んでいてちゃんと自炊してるんだなと改めて尊敬してしまう。 「八木さん、俺が洗います! 迷惑かけちゃったし。出勤の準備してください」 「そう? ありがと」  食器の量なんてたいしたものじゃない。  料理は下手な泉だが洗い物くらいは普通にできる。手早く片付け終えたところで涼介がキッチンへ戻って来た。 「泉くん」  ワイシャツにネクタイを通しながら涼介が泉を呼んで、「終わりました」と返事をしつつも違和感を覚えた。 「泉くん、って呼んでいい?」  ネクタイを締めながら涼介が笑いかけて泉のそばに立つ。

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